JAZZ COLUMN Vol.2
By KURITA TAKESHI
ベースの重力に引き寄せられて!
ピアノトリオ ブラックホールへの旅
ピアノトリオは、ピアノ、ドラム、ベースという3つの楽器が織りなす世界観です。
それはまるで音楽の不確実性と可能性を探る宇宙のような存在です。ピアノはその鍵盤のタッチとともに、ハーモニーとメロディの中心としての役割を果たします。それに対してドラムは不変の時間を感じさせる一方で、微細なリズムの変動を通じて時間の流れの中の変化を表現します。そしてベースは低音の力強い響きで、音楽の土台を築きながら他の二つの楽器との間に幾何学的な関係性を築いていきます。
トリオの中の対話は、それぞれの楽器が持つ独自の言語と哲学を超えて、音楽の核心に触れるような経験を提供してくれるのです。もともとこの3つの楽器は生まれも育ちも全く異なる楽器でした。楽器本来が持っている音量も音質もバラバラで、何より一緒にアンサンブルをするという事が想定されて作られたものではありませんでした。
現在のピアノトリオは1930年代から現代に掛けて様々なスタイルに進化してきました。少し話が逸れましたが、音楽の核心に触れるような経験とはどんな事でしょうか?
アドリブが段々盛り上がってきて、音量もトリオ全体がフォルテになった瞬間、わたしは時々意図的にピアノの音量を下げてドラムの影に隠れたりするのです。すると消えそうなピアノの音の粒子が一瞬にして絡み合い、共鳴し合って、なにか数学的か物理的原理が働いて音楽的な構造やテクスチャを生み出すのです。大音量のドラムの影で消えそうな音でピアノを弾いたとき微かなサウンドの叫びみたいなものを感じます。
ジャズというアートフォームの中で、これらの楽器が一緒になると、予測不可能な音楽の発見や進化が生まれることがあります。それはまるで、自然の中で起こる不思議な現象を観察するかのような感覚です。ブラックホールに突入したかの感覚、いや錯覚かも?
ジャズピアノトリオに耳を傾けると、私たちは宇宙の秩序や混沌、そしてそれらが生み出す美しいハーモニーを感じることができます。それぞれの楽器が持つ独自の音楽的なDNAが組み合わさって、新しい生命のような音楽が誕生するのです。この音楽的な宇宙を冒険することで、私たちは音楽の奥深さ、そしてその無限の可能性に触れることができます。Kurita Takeshi