寮生活でシャワーを浴びている最中に火災報知機が鳴り響いた時は本当にどうしようかと困りました。
常に命綱のパスポートだけ持って階下に降りたら、全長が10メートル以上もある消防
車がすでに到着している様子でした。この消防車はあまりに車体が長いので交差点を曲がると同時に後輪も曲げないと曲がれない
のです。したがって消防車の後ろに後輪専用の運転席があり、曲がる時は後輪の運転手も必死にハンドルをきっていました。実は結
果的にこの火災報知機の作動はほとんどが誤報でした。しかし8階に住んでいたためもしもの時を想定していないといけなったのです。
ある時は冬の極寒の中をまたいつものように外まで出たら雪の中で学生がサックスを吹き、ベーシストがベースを弾き、消防士がコ
ーラスを歌って踊っている光景を見た時は、ああ自由の国アメリカだなと思いました。
私が通ったバークリー音大は専門性の高い大学でいわゆる単科大学でした。といってもジャズやポップ音楽に関わる約300種
類の講座があり、必須科目の取得が終われば入学最初の月から飛び級でいくらでも好きなクラスを選択できました。クラス内容は、
ジャズの歴史から作曲、即興演奏のあらゆる発想法や理論など、ジャズを志すものにとっては知りたいことだらけの内容でした。
昼は授業で理論漬けとなり、夕方からは個人練習となり夜はさらにアンサンブルの見学や実践でした。当時はレコードの中でしか聴い
たことのなかった、あこがれていたサウンドが生であちらこちらから聴こえてきて、あの音はどうして出しているのかな?とかただただ驚きました。
ジャズはご存知の方もいると思いますが、決められた楽譜が無く、そこにあるのは簡単なメロディーラインと簡単な和音進行の記号
だけなのです。文章で言えばタイトルとほんの簡単な筋書きだけが与えられていて(いわゆるこれが既成の曲というものです)
これを元にあなたの好きなように5分位の物語を書いてください!みたいなものです。
ジャズとは奏者によって脚色、構成、演奏される大変主体性の高い音楽なんです。しかしなんでも好きに弾いていいよ!と言われ
ると困るでしょ?ほんとに困りました、わたしも以前はね。しかし現在はジャズを皆さ
んと分かち合う自分となれました。
まさに自由の国アメリカに芽ばえた自由な音楽がジャズなのです。「習うより慣
れろ」という言い回しがありますが、ジャズはまさにこうゆう要素が大きく関わります。
外国語を話したり、自転車に乗る事も似てますね!続く!
(栗田屋本店 彩り通信 掲載コラム 2018/8)